日本音楽著作権協会「JASRAC」が、10月18日に行われた内閣府<AI時代の知的財産権検討会>の第2回会合で行われた関係団体へのヒアリングに参加し、意見を述べた。意見の趣旨は以下の通りとなっている。
生成AIと著作権の関係について
生成AIの開発/利用は、創造のサイクルとの調和の取れたものであれば、クリエイターにとっても、文化の発展にとっても有益なものになり得ると考える。しかし、著作権との関係について、学習の局面と生成/利用の局面とに分けた上で、学習の局面では著作物の表現の享受がないから基本的に問題がなく、生成/利用の局面では依拠性/類似性の認められるものを著作権侵害に問うことができれば問題がない、と整理する考え方には、賛同しかねる。
世界225の著作権管理団体によって構成される「CISAC」(著作権協会国際連合)でも、TDM(Text and Data Mining)による学習について、3つの問題点が指摘されている。1つ目は「クリエイターが適切な報酬を得ることなく、その著作物が商業的に利用される可能性がある」ということ、2つ目「TDMによって学習した生成AIは、クリエイターよりもはるかに早く低コストで生成物を出力することができ、これにより競合する市場が生まれる。クリエイターの著作物をもとに学習した生成AIが、クリエイターの生計を著しく害することとなる可能性がある」ということ、そして最後は「既存の著作物の著作権を侵害する生成物の出力につながる可能性がある」ということの3点だ。
国内の音楽クリエイターからも同じような声が聞かれ、特に2つ目に関して、クリエイター同士の競争ではなく、生成AIとクリエイターとの競争により悪影響が懸念されることはフェアではない、といった不安や危機感が示されている。
音楽クリエイターを始めとした権利者の不安は著作権法のみによって解消はされないが、不安軽減のための方策として、政府には「学習の局面における権利者の選択の機会の確保」「何を学習したかについての透明性の確保」「依拠性に関する立証負担の軽減」「著作物でない生成物について著作者を詐称した者に対する罰則」の4点について検討してほしいと考える。
生成AIに係る知的財産権のリスク回避等の観点からの技術による対応について
技術による対応によって権利者の不安や不利益が解消されることは望ましいと考える。特に、透明性の確保に資する技術やAI生成物であることを識別可能にする技術については、実用化を期待している。しかし、これらの対応を無効化する技術の登場が想定されるなど、技術による対応には限界がある。
また、学習をされない選択(オプトアウト)を可能にする技術についても、音楽著作物の場合は、クリエイター以外の第三者がコンテンツデータを流通させるケースが多く、法的な担保のない中では、クリエイターの意向を尊重した技術の活用がされることは期待できないため、やはり限界がある。
したがって、技術による対応の検討だけでなく、法的な面における対応の検討が必要であると考えている。
生成AIに関するクリエイター等への収益還元について
「AI時代の知的財産権検討会」では、学習用データの有償提供による収益還元が例示されているが、作詞者・作曲者などの音楽クリエイターがコンテンツデータを有償提供する契約を各自で生成AI開発事業者と締結することは難しいと思われる。また、音楽ビジネスの現場で仕事をしているクリエイターは音源の権利(「レコード製作者」の権利)を自ら有しているわけではないため、素材ストックサービスに自らの楽曲のコンテンツデータを登録して生成AI開発事業者への有償提供に供することも難しいと考える。
著作権が制限されていることを前提にした上で、音楽クリエイターにとって現実的な収益還元策を想定することは困難。したがって、事実上の収益還元の検討だけでなく、法的な面における対応の検討が必要であると考えている。
文化芸術とコンテンツビジネスの持続的発展のためには、クリエイターが安心して創作に専念できる環境を確保することが重要。創造のサイクルとの調和が取れたAI利活用の枠組みの実現に向けて、引き続き検討や提言を行う。